大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和29年(う)1006号 判決

被告人 ロイ・ボーエン

〔抄 録〕

本件は、占領期間中に占領軍裁判所に起訴係属していたところ、審判未了のうちに平和条約発効となつたのであるが、この占領軍裁判所の審理未了の措置は、日本国との平和条約第十九条(d)項にいわゆる「不作為」に該当する。すなわち、占領軍裁判所が本件を審判未了として訴追後の被告人を不問に付する行為は、占領当局の指令の結果として生じた不作為行為であるから、理由の如何を問わず承認せらるべきであり、従つて日本国は本件につき被告人を訴追する権利は過去、現在を通じて有しないものであると主張する。しかしながら前敍のように、本件が先に占領軍裁判所に起訴係属し、審判未了のうちに平和条約発効となつたとの点は、その確証がないばかりでなく、仮にかかる経緯があるとしても、占領軍裁判所は平和条約の発効と共にその存在の余地を失い、同裁判所に係属中の事件を審判し得ないため、未完結の本件を日本国検察庁に送付したものと認むべきであるから、占領軍裁判所における本事件の審判未了を以て所論のように訴追後の被告人を不問に付する行為であり、平和条約第十九条(d)項にいわゆる「不作為」に該当するものとはいい得ないのみならず、元来、同条項の規定は、占領期間中に占領当局の指令の結果として行われた作為又は不作為を日本国が有効として承認するとの趣旨に外ならないから、連合国人の犯罪行為がこの場合に該らないことも多言を要しない。所論は誤まれる見解を前提とするものであつて、採用の限りでない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!